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出会いと感謝のジェラート

出会いと感謝のジェラート Natu-Lino(ナチュリノ)

名取市に佇む、一軒のジェラート屋、「Natu-Lino(ナチュリノ)」。花の咲くテラス席には楽しくジェラートを頬張るお客さんがいて、穏やかで明るい空気が流れている。店内に入ると、色鮮やかなジェラートが目に入り、メロン、イチゴ、ずんだ、お米、地元産の食材でできたジェラートは、どれもおいしそうで、食材の特徴が書かれた札を読むだけでも思わず口元が緩んだ。
 そこで迎えてくれたのは、穏やかな笑顔をしている「Natu-Lino(ナチュリノ)」の経営者、図南商事㈱の鈴木知浩社長だった。簡単な自己紹介をしてインタビュアーの私が台湾人だと分かると、実は何度も台湾へいらしたことがある鈴木社長は、台湾での思い出を熱く語ってくれた。こうして台湾の話を皮切りに、インタビューが始まった。

図南商事(株) 代表取締役社長 鈴木知浩さん

図南商事(株)二代目社長、初代社長の創業精神を大事にし、「地元の育む恵みを生かし、笑顔と感謝をお届けする」という企業理念を貫く。

台湾とはどのようなつながりですか?

 祖父は太平洋戦争のときに高雄駅の近くで軍のお仕事をして、高雄の人にすごく良くしていただいたそうです。祖父を会いに父は祖母に高雄に連れられて行ったそうです。そのため、父は若いうちから台湾に当たり前のように行っていて、鉄道がない頃はヒッチハイクで台湾1周してました。幼稚園の頃から私は家で天仁ティーの老茶を飲んでいまして、物心ついた頃から、父親の影響で台湾は自分にとって近くて、好き嫌いとかいう前にめちゃめちゃ身近な存在です。

 東日本大震災のとき一番助けてくれた台湾に感謝を伝えるための「謝謝台湾プロジェクト」が震災後台湾で行われました。そこで台湾の方に「なんで東日本大震災のとき、台湾人がお金持ちからお金のない人まで日本のために義援金を送ったのに、日本人あんまり『ありがとう』って言ってくれないの。」と言われました。それがショックで、何か悪いことしたと思いました。そこで、次にまた台湾に行った時はGoogle翻訳を使って「東日本大震災のときは大変お世話になりました。僕は今度ジェラート屋やろうと思っているので、ジェラートで台湾と日本の友好ができたらいいと思っています。」というメッセージカードを書きました。お酒を飲みに行って、夜な夜なそのカードを初めて会う人に「よろしく」「ありがとう」と言いながら配っていました。それをやっているうちに台湾人と仲良くなってきまして、今度は花蓮で大地震がありました。居ても立ってもいられないので、友達とお金を集めて、花蓮の日本人会の人に渡したり、楽天球場のイベントで義援金を集めて、太魯閣の子供たちに文房具を買ってあげたりしました。それぐらい台湾、普通に好きです。

Natu-Lino(以下、ナチュリノ)のジェラートの特別なところは?

 ナチュリノのジェラートはご縁とご縁が繋がって、その中から生まれてくるものだと感じます。

 ジェラートがある、そしてジェラートの前に素材、材料がある、さらにその素材の前に人、作り手がいる。作る人が違うと、やはり味は違うのです。 

 東北でものを作る人は優しくて、震災と津波で悲しい思いと痛みを知って、そこからはい上がってきた人が多いです。そういう人たちがいるから、新しい出会いとご縁ができ、ご縁が繋がれば繋がるほど化学反応が起きて新しい材料が出てくるから、新しいジェラートになります。 

 ジェラートはワインと同じと考えるといいです。その年のブドウと天候によって良いワイン、良くないワインがあって、それと全く一緒です。僕らは生乳を使ってジェラートを作っています。生乳は年間を通してみると、乳脂肪分がすごく上下するもので、暑い時期は乳量が減り、乳脂肪分も下がって、さっぱりした味がします。そして冬になると乳脂肪分が上がるので、濃厚なジェラートができます。でも工場製品のパックの牛乳だと全部均一化されていて、年間通して乳脂肪分や様々な成分が安定しているから、同じ味になります。   

 自然界に同じものはないので、そこをいじる必要がなく、あえてその違いを楽しみたいです。不作も豊作も地元の恵みなので、みんなでそれを楽しもうねっていう感覚で、土地の状態、土地の今年の物語をジェラートにしています。 

地元産材料にこだわる理由は?

 日米両首脳の非公式夕食会でバイデン元大統領にジェラートを食べていただいたときに、ある企業から全国の店舗でプレジデントジェラートを出そうというお話がありました。

 でも、工場で作ったサンプルを食べてみると、ジェラートに水を足すので、ナチュリノの味でなくなってしまいました。企業からは、水を足さないと原価が上がりすぎて販売できないと言われ、取りやめになりました。本当はお金が欲しい、めちゃめちゃお金が欲しいです。でも今うちのジェラートを食べて、お客様が「亘理のイチゴ」、「小松牧場のミルク」美味しいねと言ってくださるので、もし全国展開で味が下がったら農家さんに迷惑かけちゃうと考えたら、お客様と農家さんを裏切れないと思って断念しました。

 ナチュリノは手段だと僕は考えています。優しくて強くてしなやかな良い人たちがこの地域を支えて、良いものを作っていますが、その人たちがどれだけ良いものを作っても、今の流通だと安く買い叩かれちゃいます。なので、うちのジェラートを通じて、地域の良いものをみんなに知ってもらって、それを一円でも高く買ってもらえるような仕組みを作って、農家さん一人ひとりのブランドのタッチポイントになる手段がナチュリノなんです。

 ナチュリノのジェラートが美味しい、けどその美味しい理由は、その先に素敵な農家さんがいて、その人たちが一生懸命ものを作ってくれているからです。

 テレビの方に来ていただいたときは必ず「仮に5分のお時間をいただけるとするならば私は2分で構いませんので、残りの3分は農家さんにフォーカスしてください」と言っています。農家さんは知れば知るほど面白い方がたくさんいて、いろんな考えをお持ちの方がいらっしゃって、そういう方の考え方に触れるとものが美味しい理由がわかります。でも農家さんは情報発信力を持てない人が多いです。その方たちの面白い話をお客様に触れてもらえる場所を作り、来てくださった方に名取とか岩沼とか、この地域を好きになってもらうことが、この店の役割だと思っています。

インタビュアー、ライター: 海蒂(ハイジ)

台湾出身、仙台在住の文系女子。東北で出会った暖かいストーリーをお届けします。

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